ウルトラカンジ

生後 7 ヶ月で GLUT1 欠損症と診断された男の子の成長日記、と GLUT1 やケトン食について

ケトン食再入門(1)

8月末の患者会の総会とその直後のカンジの入院を機に、改めてこの病気(Glut1 異常症)とケトン体やケトン食について勉強し直さないとなーと思い始め、何冊か本を読んでみました。今回はそれらの本の紹介です。

『ケトン体が人類を救う』

かなり前から積んでいたのでまずはこの本から読み始めました。

著者の宗田哲男先生はてっきり糖尿病の医師かと思い込んでいましたが産婦人科医でした。本の目的は2つ。1つは、医療機関側の的外れな栄養管理のせいで苦しめられている糖尿病の妊婦さんや妊娠糖尿病の患者さんたちを救うこと。もう1つは、糖質制限やケトン食が危険ではなく本来の人間の体には適した状態であるという新しい事実を伝えることです。

医療機関側の「的外れな栄養管理」というのは、炭水化物(糖質)にかたよった栄養指導です。三大栄養素のうち血糖値を上げるのが糖質だけです。糖質の摂取を抑えれば糖尿病にならないのにカロリー摂取量のみを制限し、無理に糖質をとらせようとするから糖尿病がなくならない、という問題提起です。これは特定の医療機関だけの問題ではなく、厚生労働省をはじめとした栄養学全体の問題で、無根拠に炭水化物の摂取目安量の割合を、1日に必要なカロリーの 60% としていることに起因しています。この 60% という割合は一般的な日本人の食事量の統計の単なる結果であって、科学的な根拠はありません。

実際、アメリカのジョスリン糖尿病センターの栄養比率の基準は、「糖質:タンパク質:脂肪」で 40:30:30 となっているそうです。WHO でも糖類に関するガイドラインとして、2015 年 3 月に「多くても総エネルギーの 10% 未満にすべてきで、5% 未満であればより効果的」とも発表しているそうです(両方とも本文より)。

日本食がヘルシーなのは(十分にすりこまれているので)なんとなくわかりますが、なんとなく無根拠に信じることほど危険なことはないですね。脂肪が悪者で炭水化物(糖質)がいい者の図式なんて、Glut1 患者には迷惑この上ないです。以前からドクター江部こと江部康二先生の本を読んだことがあったのでそのあたりの事情(日本の食生活が糖質偏重ということ)はなんとなく理解していましたが、この本の主張で改めて理解できました。ちなみに、江部康二先生もこの本の中で手紙などの形で再三登場されます。

この本では胎児や新生児はケトン体をエネルギー源にしているという驚くべきことも科学的な根拠を基に書かれています。コレステロール悪玉説も最近の研究結果から根拠が薄いとして退けています。詳しく知りたい方はぜひ読んでみてください。

そして、ヒトが歴史的に見てケトン体を主なエネルギー源にしてきたこと、日本人も穀物中心の生活になってからはそれほど時間が経っていないこと、ケトンがいかに効率的なエネルギー源であるか、さらに、ケトン体がアルツハイマー病や認知症に、がんに対しても効果があるということも書かれています。糖尿病や妊娠糖尿病患者さんによる糖質制限食の体験談も豊富です。

あと、糖質制限食を推奨したことによる、糖尿病学会からのバッシングがいかに厳しいものであったかというのもリアルに伝わってきておもしろいです。余談ですが、糖尿病学会は今も公式には糖質制限の有効性を認めていないそうで、学会側からすれば「不都合な真実」ってところだったのでしょう。以前から、個人的に糖尿病学会や患者会に懐疑的でした。新聞の折込広告に大々的に(もっと言えば豪華に)、糖尿病患者会の様子をレポートし、糖尿病患者は減るどころか年々増加し、10人に1人が糖尿病ですとかのんきなことを言っててなんだかおかしいなと思っていたところでした。日本社会の闇は色々深いです。

『ケトン食ががんを消す』

ケトン食ががんに効果があるということを世界初の臨床研究で実証した内容を記した本。『ケトン食が人類を救う』の終わりの方にも、この著者(古川健二先生)に少し触れられていました。

簡単になぜケトン食ががんに効果があるかというと、がん細胞の主な栄養源がブドウ糖だけだから、糖の摂取量を極度に抑えた食事をすることでがん細胞を死滅させることができる、ということ。これを著者は「免疫栄養ケトン食」と呼びます。内容というか文体は『ケトン食が人類を救う』に比べると結構学術的。流行りの糖質制限食とは一線を画し、「あくまでがん治療に特化した免疫栄養食事療法であり、少なくともダイエットや健康志向の延長線上にあるものではない」と明記します。

がん細胞は正常細胞より多くのブドウ糖が必要だけど、正常細胞はブドウ糖の供給が途絶えても代わりのエネルギーを皮下脂肪から作り出すことができて、それがケトン体。がん細胞はブドウ糖とは異なる効率の悪いエネルギー産生方法を使っている(嫌気的解糖)のに、なぜ正常細胞を侵食するほど成長するかというと、がん細胞の細胞膜では、「『ブドウ糖輸送体(グルコーストランスポーター)』というタンパク質が、異様に増え」ているから、とさらっと Glut について触れられたりして驚きます。「ワン」とまでは書いてないけど。

ケトン体エネルギー回路の燃費がブドウ糖エネルギー回路に比べて高燃費であることや、ケトン体が活性酸素を除去してくれて病院スタッフよりケトン食をしているがん患者の方が活性酸素の数値がよかったこと、ケトン体が長寿遺伝子を目覚めさせるというエピソードも書かれています。

ケトン体が脳細胞のエネルギーになることも書かれています。ケトン体は水に溶ける水溶性なので、タンパク質やアミノ酸、脂質は通過しにくい血液脳関門を、ブドウ糖と同じように通過することができると。

ただし、いいことばかりではなく、よくない事例についても公平に触れられています。小児てんかん症の治療法として長期的にケトン食をしていると、まれに重篤な副作用(体力の減退、嘔吐、低血糖による意識低下等)もあるそうです。Glut1 患者からはするとどうすればいいのかと思うようなことですが、ここでは症例としてあったことの事実として述べられています。

さらに、中鎖脂肪酸EPA などのオイルの解説、免疫栄養ケトン食の実際から、果物や野菜の糖質ランキングとか。臨床研究結果の数々、ケトン食の献立の数々。

ステージ4のがん患者が回復していく様子はケトン食を知る上でとても励みになります。ただ、まれにケトン食が効かないがん細胞もいるようなので事態はそれほど単純ではありません。

前述のようにケトン体の基本的なことが丁寧かつ詳細に書かれていることと、後半のケトン食の献立例は Glut1 患者にも参考になると思います。ケトン食を安易に勧めているわけではないですが、ケトン食のがん治療に対する有効性を立証されているところに好感が持てます。

ケトン食ががんを消す (光文社新書)

ケトン食ががんを消す (光文社新書)

次回予告

一気に書くつもりでしたが長くなってしまったので後半戦は次に回します。

次回は、

  • 『炭水化物が人類を滅ぼす』
  • 長友佑都の食事革命』

の2本です。

お楽しみに~(違

参考