ウルトラカンジ

生後 7 ヶ月で GLUT1 欠損症と診断された男の子の成長日記、と GLUT1 やケトン食について

ケトン食再入門(2)

前回に続いてケトン体やケトン食に関する本を紹介します。

長友佑都の食事革命』

長友佑都の食事革命

長友佑都の食事革命

長くサッカー日本代表とイタリアの名門インテルミラノで活躍しているアモーレ長友の本。以前はケトン体と言えば、糖質の代わりのエネルギー源、非常時のエネルギー源という認識しかなかったので、なにかのテレビで長友がケトン食を取り入れていることを知って驚きました。長友はサッカーに対して非常にストイックで、体幹トレーニングをいち早く取り入れたり、代表やクラブでヨガを広めたりしているほどです。体幹トレーニングやヨガの本を執筆していたことも知っていたので、ケトン食の本も出してくれないかなーと思っていたら「食事革命」と題して書いてくれました。雑誌『ターザン』の連載だったようですが。

「食事革命」というのは大げさな表現ではなく、

  • 白い砂糖を断つ
  • タンパク質の補給術を考える
  • 油について考えてみた
  • 糖質制限を実験してみる
  • セミケトン食にシフトする

という、これまでのアスリートの健康食本には見られないであろうボキャブラリーが出てきます。

「白い砂糖を断つ」=「精製された炭水化物を避ける」というのは本書に一貫して出てきます。精製された炭水化物は空っぽのカロリーで、ビタミン、ミネラルなどの栄養素がありません。デンプンなどと違い分子構造が単純なので血液中にすぐに吸収されるので血糖値の乱高下を招きやすく、体への負担が大きいそうです。お菓子、お米大好きだった長友はそれらを一切やめたそうです。

勉強熱心な長友は油についても詳しく調べています。脂肪酸の種類を説明してくれて、アマニオイルなどのオメガ 3 脂肪酸EPADHA と同じ種類)や中鎖脂肪酸のココナッツオイル(MCT オイルと同じ種類)を積極的に料理に取り入れているそうです。

糖質制限とそれに続くセミケトン食の章は、ケトン体のエネルギー量に懐疑的な人には興味深い内容です。

カラダに必要なエネルギー源は、糖質と脂質のふたつ。このうち、手っ取り早いのは前者だが、最終的にエネルギー効率がいいのは後者。(中略) 90 分の試合にフル出場する場合、最初から最後までバテずにパフォーマンスを維持するには、糖質・グルコース中心のエネルギー回路に頼るより、脂肪酸・ケトン体エネルギーを活用する方が効率的なのではないだろうか。

確かに、体内に蓄えられる糖質は 250g 前後であるのに対して、脂質は体脂肪率という言葉からも連想できる通り 5kg~ 10kg もの量があるため、備蓄量にも違いがあります。さらにエネルギー生成効率もブドウ糖からのエネルギーより、脂肪酸からのエネルギーの方が効率的であることがわかっています(出典は次に紹介する本から。1 分子のブドウ糖から、ATP という体内のエネルギー化合物を 38 分子を作るのに対して、脂肪酸の一種の 1 分子からはその 4 倍近い 146 分子が作られる)。

そうして糖質制限を始めた長友ですが、余分な内臓脂肪が減り、カラダも軽くなり疲れにくくなったようですが、そこはアスリートなので一般人とはエネルギー消費量が違います。ケトン食によるエネルギー源は内臓脂肪や体脂肪ですが、もともとそれらが少ないアスリートがやると、次にエネルギー源になるのは筋肉です。筋肉量の低下はパフォーマンスの低下につながるため、今では適度な炭水化物を摂取し、セミケトン食として糖質もケトン体もバランスよく活用しているそうです。それでもやはり精製された炭水化物は避けて摂取(例えば玄米とかブランのパンとか、麺なら全粒粉とか)しているようです。

ちなみに、この辺りから登場される加藤シェフは「ケトジェニックダイエットアドバイザー」という資格を持たれているそうです(そんな資格があるんですね)。Instgram でもケトン食だけではもちろんないですが、糖質も考慮された写真をアップされていましたので気になる方は見てみてください。

www.instagram.com

トレーニングから食事までなんでもサッカーのために真摯に取り組む長友。応援せずにはいられません。アテネ世代の選手の名前を聞く機会も徐々に少なくなってきましたが、まだまだ活躍して欲しいです。

それから(まだあった)、こうした情報発信がよかったのか、今では日清オイリオさんの MCT オイルの CM に起用されています。MCT オイルもケトン食も広く知られるといいですね。

www.nisshin-oillio.com

『炭水化物が人類を滅ぼす』

次、率直な感想を言わせていただくと、タイトルが大きすぎてもったいないのではと思ってしまいます。僕のように煽り系タイトルが苦手な人はそれだけで手に取らないことも多いのではと思ってしまいますが、それはひねくれた読者(僕)の杞憂のようで、光文社新書の中でもヒットしていて、続編も出版されたくらいで喜ばしい限りです(まだ未読ですが)。

内容は、ケトン食ではないですが、糖質制限というのがどういうものかというところから文明論にまで及んでとてもおもしろかったです。平易な文章で糖質制限のダイエットの話から始まり、糖質制限の基礎知識、糖質はそもそも栄養なのかとか、糖尿病治療のおかしさ(また指摘されてる)、穀物の現状、食事と糖質の関係史など、糖質が今占めている立ち位置を解き明かします。

僕が個人的によくわかっていなかったカロリーにも切り込んでくれます。タンパク質は 1g あたり 4 kcal、炭水化物は同 4kcal、脂質は同 9kcal として扱われているが、実際には食べ物のカロリー以上のエネルギーを食べ物から得ている動物が多数存在するので、食べ物をカロリーに置き換えることは科学的根拠に乏しいと指摘します。その実例として、共生微生物や腸内細菌が仲介してエネルギーを得ている構造を解き明かしてくれます(ウシは自分で食べる牧草を自前の酵素では消化できないとか)。

母乳と細菌の関係や哺乳類はなぜ哺乳を始めたのかなどなど、そもそも論と思考実験が繰り返されてとてもおもしろく読めます。

さらに、ヒトの脳がなぜブドウ糖とケトン体の両方をエネルギー源として使えるようになったのかというくだりからは、生命の進化とエネルギー獲得法の変遷、全球凍結の地球史にまで話が広がります。

その中でもとても興味深かったのは、動物の血糖値が大きく 3 つのタイプに分けられる話でした。爬虫類などの「ほとんど動かないタイプ(30 mg/dl 前後)」、哺乳類などの「活発に動くタイプ(100 mg/dl 前後)」、鳥類の「飛行する動物(300 mg/dl)」と、ほとんどの動物がいずれかに分類されるそうです。何がおもしろいのかと聞かれるとうまく説明できないですが、お菓子もお米も食べない動物が(当たり前)それぞれ独自の血糖値維持システムをもっていて、必要な血糖値を維持しているのがなんだかおもしろいですよね…。

最後の文明論までの発展も興味深い内容ですが、個人的には、脳とエネルギー、エネルギー効率(ATP産生量)の話、古細菌真正細菌の生命進化のところが非常におもしろかったです。糖質制限によるダイエットから思えば遠くへ来たものです。

まとめ

ケトン食や糖質制限に関する本をまとめて読んでみて思うのは、糖質制限食はなにも特別な食事ではないのではないか、ということです。確かに、ケトン比の高い治療のための食事は、脂質がとても高いので特別と言わざるを得ませんが、かと言って一般的な炭水化物が中心の食事が「普通」だとは思えなくなってきました。僕はやや影響されやすいたちなので話半分に聞いてもらって結構ですがこのお話はまたの機会に…。

さて、これら以外にもケトン食に関する本は増えていて本屋で他にも目にします。本だけではなく糖質制限や低糖質をうたった飲み物、食べ物が増えてとてもうれしいです。でも、商品が増えた反面、糖質があるのかないのかがわかりにくい商品もあったりするので、正しい知識を身に着けて、カンジには少しでも楽しいケトン食ライフを過ごさせてやりたいです。