ウルトラカンジ

生後 7 ヶ月で GLUT1 欠損症と診断された男の子の成長日記、と GLUT1 やケトン食について

第5回 glut1 異常症患者会 総会のお話

かなり時間が経ってしまいましたが、8 月に開催された患者会総会についてふりかえります。

  • 日付:2017 年 8 月 26 日(土)
  • 場所:ウィルあいち(名古屋)

目次:

プログラム

基本的に 2 年に 1 回の患者会総会、我が家は久しぶりに参加することができましたが、とても充実した内容でした。プログラムは以下の通りです。今回はカンジがお世話になっている大阪母子医療センター(母子センター)の先生方の発表もあったのでとても楽しみでした。

  • 地方独立行政法人大阪府立機構大阪母子医療センター
    • 「Glut1 欠損症 病態とケトン食」 小児神経科 柳原恵子先生
    • 「ケトン食療法の実際と継続への工夫」 栄養管理室 西本裕紀子先生
    • 「ケトン食療法中の副作用」 副院長/消化器・内分泌科 位田忍先生
  • グルコーストランスポーター1欠損症症候群 患者家族における食事治療の実態調査アンケート結果の発表」 東京女子医科大学病院小児科 小国弘量先生、伊藤康先生
  • 「Glut1 欠損症の治療:ケトン食療法の効果についての全国調査結果と治療法研究の現状について」 滋賀県立小児保健医療センター 院長 藤井達哉先生
  • 「Glut1 欠損症の遺伝子治療について」 自治医科大学小児科 中村幸恵先生、小坂仁先生

とてもじゃないですがすべての内容をお伝えすることはできませんので、印象に残ったことなどを書きます。

Glut-1 欠損症 病態とケトン食

小児神経科 柳原恵子先生

カンジの主治医です。母子センターのゆるキャラ「モコニャン」の中に入ってイベントに出られたこともあるそうで冒頭から驚かされました。お茶目な先生です(笑)

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とてもわかりやすく、この Glut1 の基本から治療法をさらさらと発表されました。 Glut1 異常症におけるケトン食治療の有効性、なぜケトン体が血液脳関門を通過できて脳のエネルギー源になりえるのかといったお話や、特殊ミルクケトンフォーミュラ(正式名称:明治817-B)の特徴、ケトン食実施中のチェック項目、ケトン食を始めるにあたっての事例などをお話されました。

柳原先生の発表で印象的だったのは次の言葉です。

  • 食事治療がしんどくなってやめてしまうよりケトン比が低くてもいいからできる範囲でぜひケトン食治療を続けましょう
  • やったらやっただけの効果はある
  • 短距離ランナーにならずマラソンランナーになってみんなでぼちぼち行きましょう

ケトン食療法の実際と継続への工夫

栄養管理室 西本裕紀子先生

続いて栄養士の西本先生。西本先生もカンジの栄養指導の主治医です。

この病気の食事療法であるケトン食療法は、症例が少ない分、実践方法にも多少の幅があって、グラム単位で厳密に計算される方もいれば、そこまで厳密にされない方もおられます。ケトン食も細かく分けると、古典的ケトン食、修正アトキンス食、MCT ケトン食、などがあるくらいに幅があります(うちは古典的ケトン食)。

前述の柳原先生同様に西本先生も(というか母子センターチームは、と言った方が正しいのかも知れないが)、どちらかと言えば厳密ではない方。母子センターチームの Glut1 欠損症で目指すケトン食療法の特徴は、

  • とにかく継続する
  • 成長期に必要な栄養を摂る
  • 合併症を起こさない

です(当日の発表資料より)。

厳密にやりすぎてケトン食療法をやめてしまっては治療としての意味がないので、できる範囲でやりましょうというのが基本スタンスです。「厳密でない」と言っても、家庭ではそこまで細かく計算をしないという程度の意味で、家庭や学校での直近の献立は見てもらいます。そして、先生の方で平均的なカロリーやケトン値を計算し、患者の成長や体調、各種検査結果に応じて、食事メニューの指導をしてくれる、というのが母子センター流の栄養指導です。

なので、この日の発表でも、

  • 可能な限り低糖質で高脂肪の食事を摂る
  • 脂肪(油)は足せるときに足す

という点をシンプルに強調されていました。

また、糖質の分類(詳細は割愛しますが、多糖類、甘味料、糖類)や脂肪の分類(長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の中の飽和脂肪酸不飽和脂肪酸…)の解説などが勉強になってわかりやすかったです。脂肪は、ケトン食的には中鎖脂肪酸MCT オイルがケトン体を産み出しやすいのは確かだけれど、色んな種類の脂肪を摂るのがいい、とおっしゃっていたと記憶しています。

さらに、普段の食事や学校の食事、外出した際の食事で、簡単にケトン値を上げるアレンジ方法や工夫などふんだんな事例で解説されていました。

ケトン食療法の難しいところは、食費がかかるとか、ケトン比を計算するとか、家族と別メニューを作るとか、実際に色々とありますが、こういったシンプルで負担の軽い方法もあるというのは、これからも多くの方に参考になるのではないかと思います。

「こういった」もなにも今回は具体的な事例まではこの記事では紹介できなかったので、前回の記事でも触れた母子センターの栄養士の先生方の本が出版されるのが楽しみです。

ケトン食 in 母子センター - ウルトラカンジ

ケトン食療法中の副作用

消化器・内分泌科 位田忍先生

次に、消化器、内分泌科の位田先生のお話。

ケトン食は、高脂肪食なので、高脂血症や高コレステロールなどが心配されるが大丈夫か、というお話。

ここからは僕には少し難しいお話が多かったのですが、高コレステロールはそれほど心配はなく、ケトン食療法をすることでカルニチンという脂肪酸を運ぶアミノ酸を比較的多くとれて、カルニチン欠乏症を防ぎやすい、というような内容だったと思います。当日の資料にセレン欠乏症への言及もありますが、ちょっと記憶が定かではないので間違ったことを書かないよう、この辺りで止めておきます。

グルコーストランスポーター1欠損症症候群 患者家族における食事治療の実態調査アンケート結果の発表

東京女子医科大学病院小児科 小国弘量先生、伊藤康先生

次は、アンケート結果の発表です。

上でケトン食療法に幅があると書きましたが、この病気は症状にも個人差が大きくあります。その中で、ケトン食のタイプや開始年齢、尿中ケトンの数値などのデータをまとめられていました。まだまだ患者数が少ない病気なので、こういったデータは非常に貴重だと思います。

Glut1 欠損症の治療:ケトン食療法の効果についての全国調査結果と治療法研究の現状について

滋賀県立小児保健医療センター 院長 藤井達哉先生

実は藤井先生の発表は途中までしか聞けていないのです。別行動で当日会場に到着した次男(後述)を迎えに名古屋駅まで行っていたのでした…。

途中までしか聞けなかったのですがとても興味深い発表でした。藤井先生が元々ミトコンドリアの研究をされていて、アメリカの大学である研究室(?)に入れなかったかなにかがきっかけで Glut1 異常症の研究の第一線で活躍されだしたことなどの冒頭のお話も面白かったです。そもそもなぜケトン食で治療できるのか、ケトンとはなにかを化学式で説明されたりとか、というところまでは聞けました。資料を見返すと脂肪酸の解説や、以前僕も関心があった、短鎖脂肪酸である C-7オイルの治療事情などのお話があったようです。

またどこかで再演を希望します。

Glut1 欠損症の遺伝子治療について

自治医科大学小児科 中村幸恵先生、小坂仁先生

続いてのお話も終わり際に少し聞けた程度なので、詳細は理解できていないですが、最新の遺伝子治療に関するお話です。

内容はかなりすごくて遺伝子改変技術を施したものを髄液経由で大脳に投与すると、Glut1(グルコーストランスポーター 1)が正常に働き出す、ということをマウスによる実験で検証できたという内容です。つまり、食事療法でエネルギーを補充するのではなく、根本的に治療するという研究発表です。

遺伝子治療なので、実際の医療の現場で聞けるようになるまでは相当な時間もかかると思われます(次は豚で実験されるとおっしゃっていた)が、色々な方面から研究が進むことはいいことですね。

グループセッション、交流会ビュッフェ

この日の総会はまだまだ終わりません!

さらに患者の年代や学校等の所属別(普通学級、支援学級など)に家族がグループに分かれて、話し合いました。それぞれの悩みを共有できたり、すでに解決済みの経験談を話し合ったり、全然時間がなかったですが、ざーーっと同じグループのみなさんのお話を聞けたと思います。先生方は医療関係者グループとしてディスカッションされていました。

そしてそのままビュッフェ。患者会の家族の方や、企業やお店の協力のもと、ケトン食の食事やデザート、低糖質チョコレートファウンテン(!)まで楽しめました。

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まとめ

久しぶりに参加できたのですが、ほんっとうに充実した患者会総会でした。まずは、企画、運営された患者会幹部の方々、本当にありがとうございました。ここまで各方面の先生方のお話を聞けたのは貴重な経験でした。改めてこの病気と向き合う、いい機会になりました(この直後にカンジが入院したのもあって余計に)。こんな長文の最後にアレですが改めてお礼申し上げます。

それからこの総会で改めて感じたのはケトン食療法のわかりやすさと、それがこの病気に関していかに理にかなっているかということ。細かいことを言い出すとまだわからないことは多いのですが、なんというか、食事「療法」ではあるのですが、炭水化物中心の通常の食事とは異なるけれど、脂質中心のもうひとつの食事なのではないか、という気がします。まあでも、それがこの病気のすべてというわけでもないので、まだまだ難しいのですが。

(余談)

総会当日、大阪から名古屋へ向かうべく早起きした我が家は、次男が消化不良を起こし、行っては帰りのそれはそれは壮絶な移動劇を繰り広げていたのでした。結局、我が家は遅れて午後の部から参加、回復した次男は妻の姉と別行動で夕方に名古屋に到着したのでした…。

関係資料

総会の関係資料

その他参考資料