ウルトラカンジ

生後 7 ヶ月で GLUT1 欠損症と診断された男の子の成長日記、と GLUT1 やケトン食について

2020年度 glut1 異常症患者会オンライン勉強会・交流会

もともと今回の勉強会・交流会は鹿児島での開催を予定されていたそうですが、コロナ禍の中、やむなくオンラインでの開催となりました。 2020年度 GLUT1 欠損症の勉強会・交流会についてまとめてみます。

  • 日付:2021 年 1 月 31 日(土)
  • 場所:オンライン(Zoom)

講演「GLUT1欠損症について​・COVID-19とGLUT1欠損症」

大阪大学大学院医学系研究科小児科学
glut1 異常症患者会顧問 青天目 信 先生

​(注)青天目先生の許可を得て、発表資料を掲載させていただいています。当日参加できなかった方の参考になれば幸いです。なお、この資料の無断転載はご遠慮ください。

今回はコロナ禍の中での開催だったこともあり、これまでの GLUT1 欠損症についての解説に加えて、新型コロナウィルス感染症(以下 COVID-19 と表記)との関係についてもお話をいただきました。 発表内容は資料を参照ください。

GLUT1 欠損症の患者さんにカフェインはあまりよくないという情報は以前から聞いていましたが、ケトン体を作ることや消費することなどへの影響ではなく、GLUT1 のはたらきを落とす影響というのは意外でした。GLUT1 はもともと健常者より稼働率が低くなっているものの、それでもやはり重要なはたらきをしているんだなと思いました。

完全に余談ですが、ケトン体を脳内に取り込むものが 「MCT1」 というのは知らなかったです(資料 p.10)。ググってみたら、モノカルボン酸トランスポーターというもののようです( Monocarboxylate transporter 1 - Wikipedia)。ちなみに MCT オイルの MCT は中鎖脂肪酸油(Medium Chain Triglyceride)なので全然別物でした(MCTサロン - そもそも「MCT」ってなに?

GLUT1 欠損症の患者さんで COVID-19 になった情報はなし、とのことでした。 てんかんがあるからと言って、COVID-19 が重症化しやすいというわけではなさそうということでした。

もし親が感染してケトン食を作れなくなった場合は、病院に対応できるかを聞いておく、または一時的に普通食で耐えることも現実的な選択肢ではないか、とのことでした。

交流会

続いて交流会。

COVID-19 の話から、GLUT1 の患者だけでなく障がいをもつ人が感染したときの各自治体の情報が寄せられました。

奈良県は事前に準備シートに記入して渡しておくことで、同居家族ともにすぐに診察してくれるようです。これかな?

事前準備シートについて/奈良県公式ホームページ

滋賀県も相談窓口があるとのことでした。ご詳細されていたのとは別かもわかりませんが以下の情報がありました。

新型コロナウイルスについて障害のある方のための情報|滋賀県ホームページ

それから、患者さんの学校生活や進学準備についても情報交換がありました。 GLUT1 の患者さんは症状の程度が人によってまちまちなこともあって、学校生活でも悩みが絶えません。 給食の問題はもとより、学校側の受け入れ体制などでも様々な問題があるようでした。

また、親がケトン食を作れなくなったときの問題も徐々に現実味を帯びてきました。確かに親だけが頼りというのは、支えが一点ということで、心もとないです。低糖質の食品や商品が増えたことは喜ばしいことですが、調理する人が必要です。ケトン食の弁当がもう少し広まるといいですね。

強引な結論というわけではないですが、ここに書けない具体的なお話を聞くと、コロナ禍によって社会福祉的な課題がより一層表面化しているような印象も受けました。

さいごに

オンラインとなりましたが、患者会の勉強会・交流会を無事に開催できてよかったです。

またオフラインでお会いできる日を待ちましょう。 役員のみなさま、参加された先生方、ありがとうございました。

うちのカンジは小学校 6 年生になりました。今も元気に過ごしています。 とてもお世話になった小学校での生活も残りわずかです。

第 6 回 glut1 異常症患者会 総会・勉強会・交流会

かなり熟成させてしまいましたが…、1 年半前の患者会総会について…、書きます。

  • 日付:2019 年 8 月 31 日(土)
  • 場所:あいち健康の森(名古屋)

目次:

はじめに

この総会は、公益財団法人キリン福祉財団から支援を受け、複数の食品メーカーからの協賛品もいただいての開催となりました。

総会部分は活動報告等なので割愛して勉強会の内容から。

勉強会

講演「GLUT1欠損症の最近の話題」

大阪大学大学院医学系研究科小児科学
glut1 異常症患者会顧問 青天目 信 先生

​(注)青天目先生の許可を得て、発表資料を掲載させていただいています。この資料の無断転載はご遠慮ください。

講演「GLUT1欠損症の遺伝子治療について」

自治医科大学病院小児科
中村幸恵 先生、小坂仁 先生

以前もお話いただいた遺伝子治療研究のお話。 遺伝子治療のお話なので普通の患者にすぐに適用できるようなものではありませんが、期待はしたいです。でも日本の医療業界は予算も厳しいというお話もありましたね…。

交流会・ナラティブ〜自分たちを語ろう〜

交流会では患者や患者家族による発表が行われました。ここでは発表されたテーマと簡単な内容をご紹介します。

自治体の食事療養費助成について

  • 香川県のある市に助成を働きかけられたお話
  • 他の病気との整合性の問題で一度は却下されたが、食事療法にかかる費用や資料を提出し、最終的に年間 24 万円まで助成されることになった
  • 愛知県豊川市大府市ではすでに実施されている
  • この制度がほかでも自治体でも広がれば

ちなみに、このお話を聞いて、うちでも地元の自治体に働きかけにいきましたが、うまくいきませんでした。粘り強い交渉が必要なようです。 おかげさまで地元の自治体でも申請が通り、年間 12 万円まで助成されるようになりました。先達のみなさまと助成に取り組んでくれた自治体の方々に感謝です。

障害の受容について

患者さん自身の発表です。 障害の受容ということについて当事者しか語れない、親の気持ちにも思いを寄せた、とてもすばらしい内容の発表でした。

保育園からのケトン食提供について

  • 病気について理解のある保育園を探し、障がい児の受け入れ実績もある園にした
  • 管理栄養士が給食の献立を組み立てられていた
  • 園長や管理栄養士に対してケトン食についてのプレゼンをし、食事療法を含め様々なケアをしてもらうことになった
  • 園におけるトラブル対応など
  • 実現に向けたアドバイスなど

ケトン食を知らなかったであろう保育園に対して、食事療法から日々の生活のケアまで綿密にやりとりをされた貴重な体験談でした。今後の幼少の患者さんだけでなく、新しい環境に進学するようなときでもとても参考になる内容でした。

修正アトキンズ食療法を始めてみて

  • 病院から出された指示は糖質制限とカロリー制限があった
  • 最初は不安しかなかった
  • 糖質にだけ気を取られすぎてしまい、脂質を上げることを忘れてケトンが出ないことがあった(笑)
  • 糖質も脂質もバッチリなのにケトンがでなくて、よくよく考えると検査紙が湿気ていた(笑)

軽やかに失敗談の体でお話されていましたが、その裏には、それはそれは大変なご苦労があったことは想像に難くありません(泣)。

乳児期での診断から今までの経験

うちからの発表です。原稿も残っているので後日別の記事にしようと思います。

質疑応答

個人差や年齢差もあり、簡単に結論が出ない問題も多いです。当日の質疑メモをそのまま残しておきます。 青天目先生のスライドの後半にも相談と回答があるのでぜひそちらも参照ください。

  • 運動をした方がいいのかどうか?
  • 食事療法は厳しく計測した方がいいか、ゆるくやっていいか? → 成長過程のときはがんばった方がいい
  • みかんの糖質は GI 値が低いので血糖値が上がりにくい (よく覚えていないがメモが残っていた)
  • ゼロカロリー表記について
    • 100ml(g) あたりのエネルギーが 5Kcal 未満なので完全にゼロではない
  • 外食や旅行について
  • 朝食が食べられないときある?
  • 中性脂肪の正常値をキープするには?

おわりに

ほんとに遅くなってすみません。ただそれだけです。

あと、1 年半も前のことなのでちょっと懐かしいです。

第 5 回 glut1 異常症患者会 関西交流会のお話

7月 に開催された glut1 異常症患者会の関西交流会についてまとめます。

  • 日付:2018 年 7 月 28 日(土)
  • 場所:大阪大学医学部付属病院

はじめに

glut1 異常症患者会は 2 年に 1 回の総会と、その間の年に行われる交流会が行われます。総会に比べて交流会ではテーマや規模を抑えて開催されることが多いのですが、患者家族約 30 組、医療関係者・協力企業の方 10 数名と、とても盛況な交流会となりました。大きいことだけがいいことではありませんが、病気のことが広く知られて多くの方が参加されるのは望ましいことです。

この 8 月には 10 年の患者会の活動や、病気の悩みや食事のことなどが書かれた 10 周年記念誌も作製されました。とても充実した内容です。ご興味のある方は下記患者会まで連絡いただけると購入できると思います。

glut1glut@yahoo.co.jp

写真 2018-08-15 14 48 45

この 10 年間、このようなすばらしい交流会や勉強会、また企業や行政への働きかけなど、精力的な活動を続けていただいている患者会役員の方々、本当にありがとうございます。

プログラム

  • ランチ
  • 青天目先生ご講演
  • 交流会

ランチ

今回は会場でもある阪大医学部附属病院の食堂にご協力いただいて貸し切りで利用させていただきました。ケトン食のメニュー(豚の生姜焼き or チキン照り焼き)を出していただいて先にランチを済ませました。

写真 2018-07-28 11 11 42

あまりお腹がすかずせっかくのメニューに乗り気ではないカンジ(もうちょっと写真とっとけばよかった)。

講演「GLUT1異常症・GLUT1欠損症の特徴について」

午後から会議室に移動しての講演と交流会です。

大阪大学大学院医学系研究科小児科学
GLUT1異常症患者会顧問 青天目 信 先生

(注)青天目先生と患者会の許可を得て、ここに発表資料を掲載させていただきます。当日参加できなかった方の参考になれば幸いです。当日の資料に加筆されていますので参加された方もぜひご覧ください。なお、この資料に関しては、無断転載はご遠慮ください。

発表の内容は資料を参照いただくとしてここでは感想を手短にまとめます。

  • GLUT1 異常症・欠損症の病名:青天目先生のお話で始めて知ったのですが、この病気の日本語の正式名称が「GLUT1 欠損症」に決まったそうです。 患者会では、会の名称を変更するには膨大な手続きが必要なのでこのまま「glut1 異常症患者会」で通されるとのこと。訳が定まっていないために最初に診断された病院によって「~異常症」や「~欠損症」と呼ばれていましたが、正式名称が決まったのならこのブログでは今後は「GLUT1欠損症」を使うようにしようかなと思います。
  • 検査・診断の糖の取り込み検査:資料にもありますが、糖の取り込み検査は準備や検査が大変で今現在は行われていません。赤血球膜上にも GLUT1 がいるのでそれで比較検査をするのですが、患者と近い月齢の健常児の協力も必要です(参考までに昔の記事はこちら)。
  • 成長期の不調について:GLUT1 患者は思春期時期に体調が崩れることが多いのですが、その詳しい原因はわかっていないそうですが、ホルモンのバランスが関係しているのではないかと考えられているそうです。

交流会

続いて会場の席を円状に移動させて交流会の開始です。当日のテーマ(当日資料より)と感想です。

日中の生活の場において

  • 保育所・幼稚園、学校
  • 作業書・職場
  • 病気の伝え方、先生や支援者への理解
  • 食事の対応
    • 給食支援、お弁当持参(保温・保冷)
    • 補食のタイミング
    • 宿泊行事の対応や交渉

給食の対応では妻がうちのケース体験をお話しました(過去に書いた内容で近いのはこちら)。ですが、自治体や学校によっては冷蔵庫や電子レンジを借りられないことも難しいこともあったりと、本当に悩ましいことも多いです。そういうときの交渉術についての実践的なお話も聞けました。

先生への伝え方でも考えさせられたのは、発作が起こったときの対応です。発作の頻度が高いと先生方もある程度わかってくれるようになるが、あまり発作がないと先生方も対処方法がわからないことです。発作が起こったときの基本的な対処方法は、気道を確保しゆらさず安静にさせること。カンジは発作がでないのでなおさら、万一のときのための準備が必要だと思いました。

食事療法について

  • 日中活動の場
    • 給食→除去食の方法、油の足し方など
    • お弁当→内容の工夫等
  • 自宅での食事
    • ケトンフォーミュラの摂り方
    • 食材・油の種類・甘味料
    • レパートリーの増やし方
    • おやつ・補食の工夫
    • 家族・兄弟児への食事配慮
    • 外出・旅行先での工夫

栄養士の先生や歯学部の先生のお話も聞けました。

その他

  • 福祉、進路、リハビリ等

おわりに

短い時間にもかかわらず色々なお話が聞けてとても充実した交流会でした。役員の方々、本当にお疲れ様でした。

冬の検査入院

昨年末クリスマスから 2 泊 3 日でカンジは検査のために入院してきました。本人は変わらず元気です。この入院は前回 9 月の入院のときから予定していたものです。主治医の勧めで夏休みや冬休みなど、長い休みのタイミングで検査入院することにしました。今回は初めての予定済み検査入院です。

脳波

前回、脳波も安定して退院したこともあり、今回も特に問題ないだろうと思っていたのですが、意外にも脳波に乱れがありました。写真のような脳波の乱れが、ひどいときには数十秒に 1 回のペースで見られました。主治医いわく、前回と同じかそれよりひどくなっているかもしれないとのことでした。

写真 2017-12-26 7 47 19 写真 2017-12-26 7 47 11 写真 2017-12-26 7 46 32

幸いなことに脳波の乱れの最中(1, 2 秒)も発作の特徴は見られないので、前回同様、脳波の乱れが発作であるとは断定できないとのことでした。

前回は状態がよくなって退院し、その後も同じ食事を続けているのに、脳波の状態が悪くなっているのはなぜかを主治医に聞いたところ、「体の成長に伴って、体が使うケトンが増えて、脳に十分なケトンが届いていないのかもしれない」とのことでした。「体が使うケトンと脳が使うケトンの割り合いはわからない、同じエネルギーを取り合っているので、できるだけ体でケトンを使わないようにしたい」とも言われました。

栄養指導

前回の入院から体ががっしりとし、体重も増えたカンジ。入院前のある一日の献立を栄養士に見てもらい、摂取カロリー、栄養素、ケトン比を計算してもらいました。さらに初めて「間接カロリーメトリー」という、呼吸から普段の消費カロリーを測定する検査もしました。その結果、安静時の消費カロリーと摂取カロリーから、特に摂取カロリーが多すぎるということはないので、食事の総量は現状のままでよいとのことでした。ただもう少し糖質を抑えるようにも言われました。

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クリアケースの中で呼吸から消費カロリーを計測中。最初はマンガを読みながら検査していましたが腕に力が入るとエネルギーも消費するらしく、途中からは安静にしました。この状態で約 20 分ぼーっとします。寝ているわけではなく、下を向いているだけ。

今回の結果

今回の測定の結果、脳への影響を少しでも抑えるため、さらなる食事の強化か運動量の制限のどちらかの対応が必要と言われました。これ以上の食事強化は難しいので、我が家では運動量の制限を取ることにしました。

ただ、主治医も学校での活動はできるだけ抑えたくないので、3学期からはカンジの登下校の送り迎えを妻がすることになりました。うちの小学校は子どもたちの足で徒歩 20 分の距離です。毎日は無理でも、登下校の両方でなくても、学校生活への影響を最低限に押さえて余計な(というのも酷ですが)エネルギーを使わせないための対策です。体育の運動は今のところ、そのままにしますが、自主的にする練習(マラソン、なわとびなど)は今後控えさせます。

また、ケトン比を上げるほどの食事強化はしないとは言え、日々の糖質ももう少し制限することになり、初めて一日の糖質摂取量の制限をすることになりました。一日 20 g です。今でもほとんど糖質を摂っていないので、正直、これ以上削るところはあまりないのですが…。

退院後は順調

検査の結果に少なからずショックを受けた我が家でしたが、以前より食事に注意していたこともあって、退院後お正月を挟んでも尿中ケトンの値は 2+、3+ が続いて順調です。入院前は 1+ の日も多かったのですが。

まあ、今回は検査したタイミングが悪かったのかも知れません🤔

つまり、入院した日は 25 日のクリスマス。前日夜に家でやったクリスマスパーティーは、チーズフォンデュなどをして普段より糖質量が多かったのかもわかりません。人参とか、低糖とは言えケーキとか。その翌日に脳波の検査なので、多少は影響したのかも知れません。

脳波の検査はそんなにこまめにできる検査ではないですが、また次の検査を待ちたいと思います。

ケトン食再入門(2)

前回に続いてケトン体やケトン食に関する本を紹介します。

長友佑都の食事革命』

長友佑都の食事革命

長友佑都の食事革命

長くサッカー日本代表とイタリアの名門インテルミラノで活躍しているアモーレ長友の本。以前はケトン体と言えば、糖質の代わりのエネルギー源、非常時のエネルギー源という認識しかなかったので、なにかのテレビで長友がケトン食を取り入れていることを知って驚きました。長友はサッカーに対して非常にストイックで、体幹トレーニングをいち早く取り入れたり、代表やクラブでヨガを広めたりしているほどです。体幹トレーニングやヨガの本を執筆していたことも知っていたので、ケトン食の本も出してくれないかなーと思っていたら「食事革命」と題して書いてくれました。雑誌『ターザン』の連載だったようですが。

「食事革命」というのは大げさな表現ではなく、

  • 白い砂糖を断つ
  • タンパク質の補給術を考える
  • 油について考えてみた
  • 糖質制限を実験してみる
  • セミケトン食にシフトする

という、これまでのアスリートの健康食本には見られないであろうボキャブラリーが出てきます。

「白い砂糖を断つ」=「精製された炭水化物を避ける」というのは本書に一貫して出てきます。精製された炭水化物は空っぽのカロリーで、ビタミン、ミネラルなどの栄養素がありません。デンプンなどと違い分子構造が単純なので血液中にすぐに吸収されるので血糖値の乱高下を招きやすく、体への負担が大きいそうです。お菓子、お米大好きだった長友はそれらを一切やめたそうです。

勉強熱心な長友は油についても詳しく調べています。脂肪酸の種類を説明してくれて、アマニオイルなどのオメガ 3 脂肪酸EPADHA と同じ種類)や中鎖脂肪酸のココナッツオイル(MCT オイルと同じ種類)を積極的に料理に取り入れているそうです。

糖質制限とそれに続くセミケトン食の章は、ケトン体のエネルギー量に懐疑的な人には興味深い内容です。

カラダに必要なエネルギー源は、糖質と脂質のふたつ。このうち、手っ取り早いのは前者だが、最終的にエネルギー効率がいいのは後者。(中略) 90 分の試合にフル出場する場合、最初から最後までバテずにパフォーマンスを維持するには、糖質・グルコース中心のエネルギー回路に頼るより、脂肪酸・ケトン体エネルギーを活用する方が効率的なのではないだろうか。

確かに、体内に蓄えられる糖質は 250g 前後であるのに対して、脂質は体脂肪率という言葉からも連想できる通り 5kg~ 10kg もの量があるため、備蓄量にも違いがあります。さらにエネルギー生成効率もブドウ糖からのエネルギーより、脂肪酸からのエネルギーの方が効率的であることがわかっています(出典は次に紹介する本から。1 分子のブドウ糖から、ATP という体内のエネルギー化合物を 38 分子を作るのに対して、脂肪酸の一種の 1 分子からはその 4 倍近い 146 分子が作られる)。

そうして糖質制限を始めた長友ですが、余分な内臓脂肪が減り、カラダも軽くなり疲れにくくなったようですが、そこはアスリートなので一般人とはエネルギー消費量が違います。ケトン食によるエネルギー源は内臓脂肪や体脂肪ですが、もともとそれらが少ないアスリートがやると、次にエネルギー源になるのは筋肉です。筋肉量の低下はパフォーマンスの低下につながるため、今では適度な炭水化物を摂取し、セミケトン食として糖質もケトン体もバランスよく活用しているそうです。それでもやはり精製された炭水化物は避けて摂取(例えば玄米とかブランのパンとか、麺なら全粒粉とか)しているようです。

ちなみに、この辺りから登場される加藤シェフは「ケトジェニックダイエットアドバイザー」という資格を持たれているそうです(そんな資格があるんですね)。Instgram でもケトン食だけではもちろんないですが、糖質も考慮された写真をアップされていましたので気になる方は見てみてください。

www.instagram.com

トレーニングから食事までなんでもサッカーのために真摯に取り組む長友。応援せずにはいられません。アテネ世代の選手の名前を聞く機会も徐々に少なくなってきましたが、まだまだ活躍して欲しいです。

それから(まだあった)、こうした情報発信がよかったのか、今では日清オイリオさんの MCT オイルの CM に起用されています。MCT オイルもケトン食も広く知られるといいですね。

www.nisshin-oillio.com

『炭水化物が人類を滅ぼす』

次、率直な感想を言わせていただくと、タイトルが大きすぎてもったいないのではと思ってしまいます。僕のように煽り系タイトルが苦手な人はそれだけで手に取らないことも多いのではと思ってしまいますが、それはひねくれた読者(僕)の杞憂のようで、光文社新書の中でもヒットしていて、続編も出版されたくらいで喜ばしい限りです(まだ未読ですが)。

内容は、ケトン食ではないですが、糖質制限というのがどういうものかというところから文明論にまで及んでとてもおもしろかったです。平易な文章で糖質制限のダイエットの話から始まり、糖質制限の基礎知識、糖質はそもそも栄養なのかとか、糖尿病治療のおかしさ(また指摘されてる)、穀物の現状、食事と糖質の関係史など、糖質が今占めている立ち位置を解き明かします。

僕が個人的によくわかっていなかったカロリーにも切り込んでくれます。タンパク質は 1g あたり 4 kcal、炭水化物は同 4kcal、脂質は同 9kcal として扱われているが、実際には食べ物のカロリー以上のエネルギーを食べ物から得ている動物が多数存在するので、食べ物をカロリーに置き換えることは科学的根拠に乏しいと指摘します。その実例として、共生微生物や腸内細菌が仲介してエネルギーを得ている構造を解き明かしてくれます(ウシは自分で食べる牧草を自前の酵素では消化できないとか)。

母乳と細菌の関係や哺乳類はなぜ哺乳を始めたのかなどなど、そもそも論と思考実験が繰り返されてとてもおもしろく読めます。

さらに、ヒトの脳がなぜブドウ糖とケトン体の両方をエネルギー源として使えるようになったのかというくだりからは、生命の進化とエネルギー獲得法の変遷、全球凍結の地球史にまで話が広がります。

その中でもとても興味深かったのは、動物の血糖値が大きく 3 つのタイプに分けられる話でした。爬虫類などの「ほとんど動かないタイプ(30 mg/dl 前後)」、哺乳類などの「活発に動くタイプ(100 mg/dl 前後)」、鳥類の「飛行する動物(300 mg/dl)」と、ほとんどの動物がいずれかに分類されるそうです。何がおもしろいのかと聞かれるとうまく説明できないですが、お菓子もお米も食べない動物が(当たり前)それぞれ独自の血糖値維持システムをもっていて、必要な血糖値を維持しているのがなんだかおもしろいですよね…。

最後の文明論までの発展も興味深い内容ですが、個人的には、脳とエネルギー、エネルギー効率(ATP産生量)の話、古細菌真正細菌の生命進化のところが非常におもしろかったです。糖質制限によるダイエットから思えば遠くへ来たものです。

まとめ

ケトン食や糖質制限に関する本をまとめて読んでみて思うのは、糖質制限食はなにも特別な食事ではないのではないか、ということです。確かに、ケトン比の高い治療のための食事は、脂質がとても高いので特別と言わざるを得ませんが、かと言って一般的な炭水化物が中心の食事が「普通」だとは思えなくなってきました。僕はやや影響されやすいたちなので話半分に聞いてもらって結構ですがこのお話はまたの機会に…。

さて、これら以外にもケトン食に関する本は増えていて本屋で他にも目にします。本だけではなく糖質制限や低糖質をうたった飲み物、食べ物が増えてとてもうれしいです。でも、商品が増えた反面、糖質があるのかないのかがわかりにくい商品もあったりするので、正しい知識を身に着けて、カンジには少しでも楽しいケトン食ライフを過ごさせてやりたいです。

ケトン食再入門(1)

8月末の患者会の総会とその直後のカンジの入院を機に、改めてこの病気(Glut1 異常症)とケトン体やケトン食について勉強し直さないとなーと思い始め、何冊か本を読んでみました。今回はそれらの本の紹介です。

『ケトン体が人類を救う』

かなり前から積んでいたのでまずはこの本から読み始めました。

著者の宗田哲男先生はてっきり糖尿病の医師かと思い込んでいましたが産婦人科医でした。本の目的は2つ。1つは、医療機関側の的外れな栄養管理のせいで苦しめられている糖尿病の妊婦さんや妊娠糖尿病の患者さんたちを救うこと。もう1つは、糖質制限やケトン食が危険ではなく本来の人間の体には適した状態であるという新しい事実を伝えることです。

医療機関側の「的外れな栄養管理」というのは、炭水化物(糖質)にかたよった栄養指導です。三大栄養素のうち血糖値を上げるのが糖質だけです。糖質の摂取を抑えれば糖尿病にならないのにカロリー摂取量のみを制限し、無理に糖質をとらせようとするから糖尿病がなくならない、という問題提起です。これは特定の医療機関だけの問題ではなく、厚生労働省をはじめとした栄養学全体の問題で、無根拠に炭水化物の摂取目安量の割合を、1日に必要なカロリーの 60% としていることに起因しています。この 60% という割合は一般的な日本人の食事量の統計の単なる結果であって、科学的な根拠はありません。

実際、アメリカのジョスリン糖尿病センターの栄養比率の基準は、「糖質:タンパク質:脂肪」で 40:30:30 となっているそうです。WHO でも糖類に関するガイドラインとして、2015 年 3 月に「多くても総エネルギーの 10% 未満にすべてきで、5% 未満であればより効果的」とも発表しているそうです(両方とも本文より)。

日本食がヘルシーなのは(十分にすりこまれているので)なんとなくわかりますが、なんとなく無根拠に信じることほど危険なことはないですね。脂肪が悪者で炭水化物(糖質)がいい者の図式なんて、Glut1 患者には迷惑この上ないです。以前からドクター江部こと江部康二先生の本を読んだことがあったのでそのあたりの事情(日本の食生活が糖質偏重ということ)はなんとなく理解していましたが、この本の主張で改めて理解できました。ちなみに、江部康二先生もこの本の中で手紙などの形で再三登場されます。

この本では胎児や新生児はケトン体をエネルギー源にしているという驚くべきことも科学的な根拠を基に書かれています。コレステロール悪玉説も最近の研究結果から根拠が薄いとして退けています。詳しく知りたい方はぜひ読んでみてください。

そして、ヒトが歴史的に見てケトン体を主なエネルギー源にしてきたこと、日本人も穀物中心の生活になってからはそれほど時間が経っていないこと、ケトンがいかに効率的なエネルギー源であるか、さらに、ケトン体がアルツハイマー病や認知症に、がんに対しても効果があるということも書かれています。糖尿病や妊娠糖尿病患者さんによる糖質制限食の体験談も豊富です。

あと、糖質制限食を推奨したことによる、糖尿病学会からのバッシングがいかに厳しいものであったかというのもリアルに伝わってきておもしろいです。余談ですが、糖尿病学会は今も公式には糖質制限の有効性を認めていないそうで、学会側からすれば「不都合な真実」ってところだったのでしょう。以前から、個人的に糖尿病学会や患者会に懐疑的でした。新聞の折込広告に大々的に(もっと言えば豪華に)、糖尿病患者会の様子をレポートし、糖尿病患者は減るどころか年々増加し、10人に1人が糖尿病ですとかのんきなことを言っててなんだかおかしいなと思っていたところでした。日本社会の闇は色々深いです。

『ケトン食ががんを消す』

ケトン食ががんに効果があるということを世界初の臨床研究で実証した内容を記した本。『ケトン食が人類を救う』の終わりの方にも、この著者(古川健二先生)に少し触れられていました。

簡単になぜケトン食ががんに効果があるかというと、がん細胞の主な栄養源がブドウ糖だけだから、糖の摂取量を極度に抑えた食事をすることでがん細胞を死滅させることができる、ということ。これを著者は「免疫栄養ケトン食」と呼びます。内容というか文体は『ケトン食が人類を救う』に比べると結構学術的。流行りの糖質制限食とは一線を画し、「あくまでがん治療に特化した免疫栄養食事療法であり、少なくともダイエットや健康志向の延長線上にあるものではない」と明記します。

がん細胞は正常細胞より多くのブドウ糖が必要だけど、正常細胞はブドウ糖の供給が途絶えても代わりのエネルギーを皮下脂肪から作り出すことができて、それがケトン体。がん細胞はブドウ糖とは異なる効率の悪いエネルギー産生方法を使っている(嫌気的解糖)のに、なぜ正常細胞を侵食するほど成長するかというと、がん細胞の細胞膜では、「『ブドウ糖輸送体(グルコーストランスポーター)』というタンパク質が、異様に増え」ているから、とさらっと Glut について触れられたりして驚きます。「ワン」とまでは書いてないけど。

ケトン体エネルギー回路の燃費がブドウ糖エネルギー回路に比べて高燃費であることや、ケトン体が活性酸素を除去してくれて病院スタッフよりケトン食をしているがん患者の方が活性酸素の数値がよかったこと、ケトン体が長寿遺伝子を目覚めさせるというエピソードも書かれています。

ケトン体が脳細胞のエネルギーになることも書かれています。ケトン体は水に溶ける水溶性なので、タンパク質やアミノ酸、脂質は通過しにくい血液脳関門を、ブドウ糖と同じように通過することができると。

ただし、いいことばかりではなく、よくない事例についても公平に触れられています。小児てんかん症の治療法として長期的にケトン食をしていると、まれに重篤な副作用(体力の減退、嘔吐、低血糖による意識低下等)もあるそうです。Glut1 患者からはするとどうすればいいのかと思うようなことですが、ここでは症例としてあったことの事実として述べられています。

さらに、中鎖脂肪酸EPA などのオイルの解説、免疫栄養ケトン食の実際から、果物や野菜の糖質ランキングとか。臨床研究結果の数々、ケトン食の献立の数々。

ステージ4のがん患者が回復していく様子はケトン食を知る上でとても励みになります。ただ、まれにケトン食が効かないがん細胞もいるようなので事態はそれほど単純ではありません。

前述のようにケトン体の基本的なことが丁寧かつ詳細に書かれていることと、後半のケトン食の献立例は Glut1 患者にも参考になると思います。ケトン食を安易に勧めているわけではないですが、ケトン食のがん治療に対する有効性を立証されているところに好感が持てます。

ケトン食ががんを消す (光文社新書)

ケトン食ががんを消す (光文社新書)

次回予告

一気に書くつもりでしたが長くなってしまったので後半戦は次に回します。

次回は、

  • 『炭水化物が人類を滅ぼす』
  • 長友佑都の食事革命』

の2本です。

お楽しみに~(違

参考

第5回 glut1 異常症患者会 総会のお話

かなり時間が経ってしまいましたが、8 月に開催された患者会総会についてふりかえります。

  • 日付:2017 年 8 月 26 日(土)
  • 場所:ウィルあいち(名古屋)

目次:

プログラム

基本的に 2 年に 1 回の患者会総会、我が家は久しぶりに参加することができましたが、とても充実した内容でした。プログラムは以下の通りです。今回はカンジがお世話になっている大阪母子医療センター(母子センター)の先生方の発表もあったのでとても楽しみでした。

  • 地方独立行政法人大阪府立機構大阪母子医療センター
    • 「Glut1 欠損症 病態とケトン食」 小児神経科 柳原恵子先生
    • 「ケトン食療法の実際と継続への工夫」 栄養管理室 西本裕紀子先生
    • 「ケトン食療法中の副作用」 副院長/消化器・内分泌科 位田忍先生
  • グルコーストランスポーター1欠損症症候群 患者家族における食事治療の実態調査アンケート結果の発表」 東京女子医科大学病院小児科 小国弘量先生、伊藤康先生
  • 「Glut1 欠損症の治療:ケトン食療法の効果についての全国調査結果と治療法研究の現状について」 滋賀県立小児保健医療センター 院長 藤井達哉先生
  • 「Glut1 欠損症の遺伝子治療について」 自治医科大学小児科 中村幸恵先生、小坂仁先生

とてもじゃないですがすべての内容をお伝えすることはできませんので、印象に残ったことなどを書きます。

Glut-1 欠損症 病態とケトン食

小児神経科 柳原恵子先生

カンジの主治医です。母子センターのゆるキャラ「モコニャン」の中に入ってイベントに出られたこともあるそうで冒頭から驚かされました。お茶目な先生です(笑)

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とてもわかりやすく、この Glut1 の基本から治療法をさらさらと発表されました。 Glut1 異常症におけるケトン食治療の有効性、なぜケトン体が血液脳関門を通過できて脳のエネルギー源になりえるのかといったお話や、特殊ミルクケトンフォーミュラ(正式名称:明治817-B)の特徴、ケトン食実施中のチェック項目、ケトン食を始めるにあたっての事例などをお話されました。

柳原先生の発表で印象的だったのは次の言葉です。

  • 食事治療がしんどくなってやめてしまうよりケトン比が低くてもいいからできる範囲でぜひケトン食治療を続けましょう
  • やったらやっただけの効果はある
  • 短距離ランナーにならずマラソンランナーになってみんなでぼちぼち行きましょう

ケトン食療法の実際と継続への工夫

栄養管理室 西本裕紀子先生

続いて栄養士の西本先生。西本先生もカンジの栄養指導の主治医です。

この病気の食事療法であるケトン食療法は、症例が少ない分、実践方法にも多少の幅があって、グラム単位で厳密に計算される方もいれば、そこまで厳密にされない方もおられます。ケトン食も細かく分けると、古典的ケトン食、修正アトキンス食、MCT ケトン食、などがあるくらいに幅があります(うちは古典的ケトン食)。

前述の柳原先生同様に西本先生も(というか母子センターチームは、と言った方が正しいのかも知れないが)、どちらかと言えば厳密ではない方。母子センターチームの Glut1 欠損症で目指すケトン食療法の特徴は、

  • とにかく継続する
  • 成長期に必要な栄養を摂る
  • 合併症を起こさない

です(当日の発表資料より)。

厳密にやりすぎてケトン食療法をやめてしまっては治療としての意味がないので、できる範囲でやりましょうというのが基本スタンスです。「厳密でない」と言っても、家庭ではそこまで細かく計算をしないという程度の意味で、家庭や学校での直近の献立は見てもらいます。そして、先生の方で平均的なカロリーやケトン値を計算し、患者の成長や体調、各種検査結果に応じて、食事メニューの指導をしてくれる、というのが母子センター流の栄養指導です。

なので、この日の発表でも、

  • 可能な限り低糖質で高脂肪の食事を摂る
  • 脂肪(油)は足せるときに足す

という点をシンプルに強調されていました。

また、糖質の分類(詳細は割愛しますが、多糖類、甘味料、糖類)や脂肪の分類(長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の中の飽和脂肪酸不飽和脂肪酸…)の解説などが勉強になってわかりやすかったです。脂肪は、ケトン食的には中鎖脂肪酸MCT オイルがケトン体を産み出しやすいのは確かだけれど、色んな種類の脂肪を摂るのがいい、とおっしゃっていたと記憶しています。

さらに、普段の食事や学校の食事、外出した際の食事で、簡単にケトン値を上げるアレンジ方法や工夫などふんだんな事例で解説されていました。

ケトン食療法の難しいところは、食費がかかるとか、ケトン比を計算するとか、家族と別メニューを作るとか、実際に色々とありますが、こういったシンプルで負担の軽い方法もあるというのは、これからも多くの方に参考になるのではないかと思います。

「こういった」もなにも今回は具体的な事例まではこの記事では紹介できなかったので、前回の記事でも触れた母子センターの栄養士の先生方の本が出版されるのが楽しみです。

ケトン食 in 母子センター - ウルトラカンジ

ケトン食療法中の副作用

消化器・内分泌科 位田忍先生

次に、消化器、内分泌科の位田先生のお話。

ケトン食は、高脂肪食なので、高脂血症や高コレステロールなどが心配されるが大丈夫か、というお話。

ここからは僕には少し難しいお話が多かったのですが、高コレステロールはそれほど心配はなく、ケトン食療法をすることでカルニチンという脂肪酸を運ぶアミノ酸を比較的多くとれて、カルニチン欠乏症を防ぎやすい、というような内容だったと思います。当日の資料にセレン欠乏症への言及もありますが、ちょっと記憶が定かではないので間違ったことを書かないよう、この辺りで止めておきます。

グルコーストランスポーター1欠損症症候群 患者家族における食事治療の実態調査アンケート結果の発表

東京女子医科大学病院小児科 小国弘量先生、伊藤康先生

次は、アンケート結果の発表です。

上でケトン食療法に幅があると書きましたが、この病気は症状にも個人差が大きくあります。その中で、ケトン食のタイプや開始年齢、尿中ケトンの数値などのデータをまとめられていました。まだまだ患者数が少ない病気なので、こういったデータは非常に貴重だと思います。

Glut1 欠損症の治療:ケトン食療法の効果についての全国調査結果と治療法研究の現状について

滋賀県立小児保健医療センター 院長 藤井達哉先生

実は藤井先生の発表は途中までしか聞けていないのです。別行動で当日会場に到着した次男(後述)を迎えに名古屋駅まで行っていたのでした…。

途中までしか聞けなかったのですがとても興味深い発表でした。藤井先生が元々ミトコンドリアの研究をされていて、アメリカの大学である研究室(?)に入れなかったかなにかがきっかけで Glut1 異常症の研究の第一線で活躍されだしたことなどの冒頭のお話も面白かったです。そもそもなぜケトン食で治療できるのか、ケトンとはなにかを化学式で説明されたりとか、というところまでは聞けました。資料を見返すと脂肪酸の解説や、以前僕も関心があった、短鎖脂肪酸である C-7オイルの治療事情などのお話があったようです。

またどこかで再演を希望します。

Glut1 欠損症の遺伝子治療について

自治医科大学小児科 中村幸恵先生、小坂仁先生

続いてのお話も終わり際に少し聞けた程度なので、詳細は理解できていないですが、最新の遺伝子治療に関するお話です。

内容はかなりすごくて遺伝子改変技術を施したものを髄液経由で大脳に投与すると、Glut1(グルコーストランスポーター 1)が正常に働き出す、ということをマウスによる実験で検証できたという内容です。つまり、食事療法でエネルギーを補充するのではなく、根本的に治療するという研究発表です。

遺伝子治療なので、実際の医療の現場で聞けるようになるまでは相当な時間もかかると思われます(次は豚で実験されるとおっしゃっていた)が、色々な方面から研究が進むことはいいことですね。

グループセッション、交流会ビュッフェ

この日の総会はまだまだ終わりません!

さらに患者の年代や学校等の所属別(普通学級、支援学級など)に家族がグループに分かれて、話し合いました。それぞれの悩みを共有できたり、すでに解決済みの経験談を話し合ったり、全然時間がなかったですが、ざーーっと同じグループのみなさんのお話を聞けたと思います。先生方は医療関係者グループとしてディスカッションされていました。

そしてそのままビュッフェ。患者会の家族の方や、企業やお店の協力のもと、ケトン食の食事やデザート、低糖質チョコレートファウンテン(!)まで楽しめました。

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まとめ

久しぶりに参加できたのですが、ほんっとうに充実した患者会総会でした。まずは、企画、運営された患者会幹部の方々、本当にありがとうございました。ここまで各方面の先生方のお話を聞けたのは貴重な経験でした。改めてこの病気と向き合う、いい機会になりました(この直後にカンジが入院したのもあって余計に)。こんな長文の最後にアレですが改めてお礼申し上げます。

それからこの総会で改めて感じたのはケトン食療法のわかりやすさと、それがこの病気に関していかに理にかなっているかということ。細かいことを言い出すとまだわからないことは多いのですが、なんというか、食事「療法」ではあるのですが、炭水化物中心の通常の食事とは異なるけれど、脂質中心のもうひとつの食事なのではないか、という気がします。まあでも、それがこの病気のすべてというわけでもないので、まだまだ難しいのですが。

(余談)

総会当日、大阪から名古屋へ向かうべく早起きした我が家は、次男が消化不良を起こし、行っては帰りのそれはそれは壮絶な移動劇を繰り広げていたのでした。結局、我が家は遅れて午後の部から参加、回復した次男は妻の姉と別行動で夕方に名古屋に到着したのでした…。

関係資料

総会の関係資料

その他参考資料